晩秋の上高地2
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暮れゆく穂高 |
夕照の明神岳 |
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雲巻く山稜 |
田代池晩秋 |
撮影日:2001/11/4-5
(c)Mitsuo Tabata,1996 All Right Reserved
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冬の奥穂高、切れる筈のないザイルの切断により不慮の死を遂げる一人の若者。事件の真相を巡る仲間たちの友情、そして恋愛。
実在の「ナイロン・ザイル事件」を背景に物語は展開、綿密な取材のもと、上高地の雄大な自然がリアルに描かれている。
当時の登山ブームとあいまって、主人公魚津と小坂の愛した徳沢小屋は、「氷壁の宿」徳沢園として一躍人気となった。
「氷壁」
魚津にはナイロン・ザイルの実験以来、うっとうしい毎日が続いていたが、いま初めてその憂鬱さから脱け出すことができた思いだった。刻一刻、いま自分は友の横たわっている穂高の雪の方へ近付きつつあると思うと、体全体がじいんと痺れるような気持だった。
「松本から上高地まで自動車で行き、今日中に徳沢小屋まで行ってしまいましょう」魚津が言うと、「上高地からその徳沢小屋までの道は大変なんでしょう?」かおるは訊いた。
「もう雪はないから一時間程で歩けますよ」「雪のあるところなら、わたし平気なんですけど、雪のないところは駄目なんです。下手ですのよ、歩くの。魚津さんに見られたら恥ずかしいわ」変なことを恥ずかしがるものだと、魚津は思った。二時に松本に着くと二人は直ぐ駅前のタクシーで上高地に向った。
市街を外れると、道の両側に林檎畑が拡がり、林檎の白い花が見え始めた。いかにも五月の信濃へやって来たといった感じだった。
「あら、八重桜が咲いてますわ」かおるの声で窓外をのぞくと、なるほど農家の横手に八重桜が少し崩れた感じの紅い花を重そうにつけているのが見えた。
井上 靖 著